毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「楽しいから、ね。それってどんなお遊び?小学生のおままごと?」
「……なんだと?」
ナンパ男のあからさまな煽りに反応したのは慎くん。
勢いで一歩踏み出したのを見て私は咄嗟に手首を掴み、引き止めた。つられてぐっと前のめりになる。
普段は温厚な慎くんが手を出しそうになったという事実に、月城高校の生徒の大半が顔を青くした。
「だーかーらー、おててつないでなかよくしましょ〜って、高校生の付き合いとは思えないんだよね〜」
「俺達には俺達のペースがあるんだよ」
「それを言い訳にして逃げてるだけで、実は彼女に迫って拒否られるのが怖いんでしょ?」
けらけらと馬鹿にするように笑う。
なんだこの男。
最初は可愛いと思っていた顔だが、今となっては張り倒したくなるほど気持ちの悪い顔にしか見えない。
「拒否されて、彼女の中に自分への恋心がないって現実を受け止められないだけ。行動できない君は意気地無しなんだね〜」
ずばずばと言いたい放題に言われっぱなしで限界が来たのだろう。
拳をぎゅっと握りしめたらしく、暴走しないように掴んでいた手首に血管が浮いたのがわかった。
一触即発の雰囲気に掴む手に力を入れる。
この場面において、暴力だけは何があってもダメだ。
殴るのは思い留まってほしい。