毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす



……なんて考えは見当違いだった。


「ごめん」

「……え?」


こちらを振り返って見下ろしている瞳は不安げに揺れていて、私より大きいはずの彼がとても小さく見えた。
なんで謝ったのか。


か弱げな瞳に吸い込まれ、何も考えられなくなっていると、


「……んっ!?」


私のファーストキスがいとも簡単に奪われた。


噛み付くように勢いよく触れた唇に驚き、多くの人に見られているということを思い出した私は顔から火が出そうになった。


私が慎くんの手首を掴んでいたはずなのに、いつの間にか慎くんが私の手首を拘束して引き寄せられていて、距離をとることが出来ない。
されるがままだ。


……これは、神様からの私への罰だろうか。


彼は私を好きだと言ってくれた。

そのとき、私は彼を好きではなかった。

そして、時が経っても好きになれなかった。

それでも、彼を利用し続けてきた。


デートをしようと誘われれば、無邪気に喜んでみせて、それにのっかってなるべく人の多い場所を提案してみたり。


どこか甘い雰囲気になれば、その雰囲気にのまれるふりをして直前でわざとくしゃみをして、空気をぶち壊してみたり。


触れ合いはことごとく、ごく自然に回避してきたのだ。


私の初めてのキスとは言えど、これまでの私の彼に対する仕打ちを考えると、甘んじて受け入れるべきなのかもしれない。


それに、昔もこれからも私が誰かを好きになるなんてことはなさそうなことだし……"初めては好きな人と"という乙女の思考をするだけ無駄だったんだ。


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