毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「今の見た?してるフリなんかじゃなかったよね?」
「大勢の前で見せつけるの、すげーな。あんなの恥ずかしくて俺は出来ねー」
「あんたはする相手がいないんでしょ。それにしても、二人の姿が絵になりすぎてて、ちょっと見惚れちゃった!」
人混みから離れても聞こえてくる会話の数々。
左手は慎くんに引かれているままだというのに、女子の突っ込みが辛辣でつい吹き出してしまった。
本当に私が気にするべき点はそこではないということに時間差で気づく。
友人はどうしているだろうと気になって振り返ってみると……
『あーあ。これは明日にはお互いの高校の全生徒の耳に入るんだろうな』
と、思っていることがわかるほど顔に出ていて、苦笑いを浮かべている冷静な凛ちゃんと、
「目を閉じてキスするかれんちゃんは可愛すぎてスマホのカメラで連写しそうになったよね!さすがにあんな雰囲気の中でカメラのシャッター音を鳴らすことなんて出来ないから必死に我慢したんだけどね!なんであんなに可愛いんだろう?もはや芸術と言えるよね!!」
……恥ずかしいくらいの熱量で友達に耳を塞ぎたくなるような私への賞賛の言葉を並べている、なっちゃんが見えた。
そうか、噂か。
私が羞恥に耐えきることが出来れば問題ないのだと思う。
むしろ、噂が広まればそれはそれで一層私に男が寄り付かなくなるとすれば大成功だ。
……なんていまだにこういう考え方をしてしまう自分はあの男に負けず劣らずの性格なのだろう。
「この食器は私が片付けとくよ」
最後に聞こえた凛ちゃんの声。
……あ。
ご飯を完食し損ねた……最悪。
やっぱり色気より食い気な私であった。