毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
頭の中で、この三日間の予定が書かれたしおりをめくる。
確か夕食後は入浴時間だが、早めに切り上げたおかげで三十分ほどの自由な時間が出来た。
今部屋に戻れば、酷使している表情筋を休憩することが叶う。
私以外に部屋には誰もいないのだから、虚無タイムに突入して誰かが戻ってくるまでの間はずっと真顔でいたい。
寝る直前まで笑っていなければいけないこの行事は、私にとってかなりの地獄の行事となっていた。
しかし、一人になりたい私の意思に反して、慎くんは二人でいたいようでずんずん廊下を突き進む。
逃げようだなんて思っていないのに、逃がさないと言わんばかりに強く握られた手が、少し痛い。
「慎くん」
一度目は止まらなかった。
私の手を引いている慎くんは当然前を向いていて、その表情は見えない。
「慎くんっ!」
「っ!」
「ちょっと痛いかも」
「……ごめん」
慌てたようにぱっと手を離した慎くんはその手で顔を覆った。
やっぱり表情は見えなくて、何を考えているのかわからない。
……キスをする前、なんで謝ったのか。
キスをしたのに、なんで傷ついているのか。
なんで感情を隠そうとするのか。
わからないことが多くてさすがの私もお手上げ状態だ。