毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「どうしてそんなに泣きそうな顔をしているの?」
「正直、キスした時は突き飛ばされる覚悟でやったんだ。だから、めちゃくちゃ不安で仕方がなかった。でも、かれんはキスを受け入れてくれて……それで嬉しくなって、安心して。そして安心したところで、かれんは優しいから受け入れてくれたんじゃないかって思った。それで感情がごちゃ混ぜになってわからなくなって、苦しい」
一気に思いを吐き出すように息継ぎもなく言われた言葉に、偽りのない確かな苦悩が見えた。
そして、その苦悩を与えているのは私。
私は優しいから受け入れたんじゃない。
私はそんな綺麗な人間じゃない。
私は醜い人間で、ただ罪滅ぼしのために受け入れただけ。
彼を騙しているという罪悪感で胸が押しつぶされそうになる。
……ごめんなさい。
「えっ……?」
頭を下げ続けたままの慎くんの頭は、ちょうど私が手を伸ばせば届くところにあって。
なでなで、とさらさらの黒髪の表面をゆっくりと撫でた。
好きでもない相手に、こういう思わせぶりな行動をするのは罪を増やすことになる。
そう頭ではわかっていながらも私の手は止まらない。
ただただ、今は彼の不安を少しでもはらってあげたかった。
……とんだ偽善者だ。
自分のことがもっと嫌いになる。
私は私のことが大嫌いだ。