雲居の神子たち
本気になった女は強かった。
尊の動きを封じたまま私に攻撃を続けている。
きっと、その気になれは私なんて一瞬で息の根を止められると思う。
でも、その気はないらしい。
どう見ても、苦しむ私を見て楽しんでいる。

「いい加減諦めて、私のものになりなよ」
真っ赤な唇で笑って見せる女。

――イヤ、ぜっいに嫌。私はあなたに屈しない。

「じゃあ、仕方がない。これでどうだい?」
女が尊を見る。

ウウー。
尊がうなり声をあげのたうち回ると、左の手から血が流れだした。

――何を、

「腕を一本傷つけてやった。大丈夫、利き腕ではないし、まだつながっている。神経は切れただろうから使い物にはならないだろうけれどね」

そんな、酷い。

苦しみ続ける尊を見て、私の中で何かがプツンと音を立てて切れた。

許さない。絶対に許してやらない。

まずは意識を集中して念を女にぶつける。
まさか反撃なんてしないと思っていた女がひるんだすきに自分の髪の毛をつかみ、近くにあったろうそくの火で焼き切った。

髪の毛には魂が宿ると聞いた。
女は私の血を欲しがっていたから、きっと何かの力があるんだろう。
同じように髪の毛にも、力があると信じたい。

焼き切った髪の毛にろうそくの火を当て、『あの魔導士をやっつけて』と念じた。

チリチリと音を立てて燃え上がる髪の毛。
そして、
髪の毛は小さな無数の刃となって女に向かっていく。

「ウウウゥー」
女の叫び声。

「尊」
私は尊に駆け寄った。

「大丈夫?」
「ああ」
血を流した左手を抱えながら、尊が立ち上がる。

床滴り落ちる血を気にすることまもく、尊は女に呪文を唱える。

「ギャアー」
絶叫の中、女が炎に包まれた。
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