雲居の神子たち
まどろみの中で、私は何度も夢を見た。

まだ幼かった私と、須佐と、八雲。
朝倉神官に怒られながら、勉強をさぼっては遊んでいた。

楽しかった。
自分の世界は深山の中にだけあって、三人でいることがすべてだった。
あの頃に戻れたら、どれだけ幸せだろう。


「稲早」
私を呼ぶ声。

これは須佐の声だ。

「稲早」
今度は八雲の声。

何度も何度もかけられる声に、私はゆっくりと目を開けた。


ここは見覚えのある部屋。
私が8年も過ごした深山の宿舎。
眠っていた寝具も自分のもだ。

「稲早、気が付いたのね」
私の手を握り、八雲が涙ぐんでいる。

「よかった、このまま眠り続けるんじゃないかと思った」
須佐も喜んでくれる。

「私はどのくらい眠っていたの?」
焚きしめられた眠り香の感じからすると半日やそこらではなさそうだけれど。

「10日間眠り続けていたのよ」

へえー、10日間も。

「白蓮は?」

「「・・・」」
八雲も須佐も返事をしてはくれない。

「白蓮はどうしたの?」
どうしても気になって、もう一度聞いてみた。

「そのことは、私からお話ししましょう」
障子が開き、入ってきたのは朝倉神官だった。
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