雲居の神子たち
その時、
俺は襟首を捕まれた。

えええ?
つまずいて転びそうになる俺の横で、八雲も歩を止めた。

恐る恐る、後ろを振り返る。


「あ、ああ、・・・」
驚きすぎて言葉が出ない。

一番会いたくない人がそこにいた。

鬼のような形相の朝倉神官が、俺たちを睨んでいた。

「何をしているんですか!」
行き交う人が振り返るような声で、怒鳴られた。

反応できずに固まっている俺たちに、
「帰りますよ」
抑揚のない声で告げる。

「待ってください。稲早がいなくなったんです」
八雲が詰め寄る。

「こちらで探します。あなたたちは帰りなさい」

「嫌です。稲早が見つかるまでは帰りません」
俺は叫んでいた。

次の瞬間、
パンッ
朝倉神官が俺の頬を叩いた。

「いい加減にしなさい。まずは自分の行動を反省しなさい」
凍り付くような視線を向ける。

俺は何も言えなかった。

深山で生きることは運命。
始めは自分の意思ではなかったけれど、今は望んでここにいる。
深山の神子であることに誇りを持っている。
それなのに・・・
今日の俺たちの行動は後悔以外の何物でもない。

ヒュー。
朝倉神官が合図をし、現れた男たちによって俺と八雲は担ぎ上げられた。

「降ろしてください。自分で歩きます。逃げたりしませんから」
暴れ、叫んでみたが、
「今の君たちは信用できません」
冷たく言われた。

結局、俺と八雲は担がれたまま深山に連れ戻された。
< 31 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop