雲居の神子たち
「ごめんなさいね、あなたを巻き込んで」
2杯目のお茶を入れたところでお母さんが私の前に手を突いた。

「いえ・・・」

さすがに誘拐され縛られた状態で目を覚ました時には焦った。
もしかしたらこのまま殺されてしまうのかもと思ったし、どんな思惑があるのかもわからなくて怖かった。
しかし白蓮の境遇を知り、置かれている状況を知った今は恐怖心などない。

白蓮のことを気の毒だと思うし、私が手助けできることがあればしたいと思っている。
もちろん、そのために自分の命や体を差し出す気はないけれど。

「いざとなったら私が息子と主人を止めるから、あなたは逃げてね」
真剣な顔で話すお母さん。

きっと本気なんだ。
たとえ刺し違えても、私を逃がす気でいてくれる。

「お母さん、大丈夫ですよ。きっと尊が何とかしてくれます」
「そうね」

何の根拠もないけれど、私は尊を信じていた。

異国から来た得体のしれない若者。
姿かたちや身のこなしを見ているだけで、只者ではない気がしている。
本当は身分のある人なのかもしれない。
事情があって身分を偽り雲居にやってきた。
私はそう確信している。
だから、尊なら私たちの想像もしない方法で解決してくれるはず。
今はそれを待ちたい。
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