雲居の神子たち
「なあ、どうやって塀を超えるつもりだよ」

数時間前に稲早が入っていった裏木戸の前で、俺たちは立ち止まっていた。

これだけの家だ、戸締りは厳重だろうしこっそり入り込める隙があるとは思えない。
ましてや今夜は満月。明るい月明かりに照らされ、闇に偲ぶなんてことはできそうもない。

ガタンッ。
しばらく裏口の前に立っていると、扉の向こうから小さな物音がした。

え?

それを待っていたように、尊が木戸へと手をかける。

「嘘、だろ」

信じられないことに、音もなく木戸が開いた。

そんな馬鹿な。
稲早が入っていった後、確かに締められたのを俺は見は見ていた。
締め忘れなんてありえないし・・・

「行くぞ」

呆然と口を開けた俺は、何事もなかったように敷地の中へと入っていく尊の背中を見つめた。

こいつは本当に何者なんだ。
只者じゃないとは思ったが、俺の想像のはるか上を行っている。
俺はとんでもないやつを誘拐してしまったらしい。

「しっかりしろ、ボーッとするな」
状況整理がつかない俺に、尊の檄が飛ぶ。

ああ、そうだった。
今は稲早の心配をする方が先だな。
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