雲居の神子たち
「これからどうするんだ?」
別邸の高い壁を見上げながら、石見が聞いてきた。

すでに稲早がここにいないとわかった以上、この場にいる意味はない。

「いったん町に戻ろう」
そうしているうちに、きっと陰からの知らせが入るはずだ。


「なあ」

少し前に走った道を逆走する俺と石見。
色々と思いを巡らせる俺に、石見が声をかけた。

「何だ?」
「なぜ、俺に誘拐されたんだ?」

は?
意味が分からず石見を見た。

なぜって、誘拐したのはお前の方だろう。
その理由を俺に聞かれても困る。

「あれだけの従者に守られているお前なら、誘拐なんていくらでも阻止できただろう。仮に誘拐されたとしても、俺と父さんなんて簡単に撃退できたはずだ」
「まあな」

正直、影なんて使わなくても自分で逃げ出すことは可能だった。

「なぜそうしなかったんだ?」
「それは・・・厄介ごとに巻き込まれる煩わしさよりも、稲早や白蓮に対する興味の方が勝ったってことだ」

「それは、2人がお前に旅の目的にかかわっているってことか?」
「かもしれない」

こうして話していて気が付いた。
石見は頭のいいやつだ。
農家にしておくにはもったいないくらいに回転が速くて、機転も利く。

「お前も白蓮を狙っているのか?」
「それは違う。俺は白蓮や稲早を物のように扱うつもりはない」
「そうか」

はっきりと答えた俺に、石見は安心したようだった。
< 87 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop