雲居の神子たち
町の中心へと戻ってきた。

「稲早様の所在がつかめました」
風の音に乗って届く影の声。

「どこだ?」

「両替商の、法月堂に連れていかれたようです」
「法月堂?」

「はい。表向きは両替商ですが、裏では魔術を扱い医者から見放された病気を治すと評判のようです」
「ふーん」

魔術で人を治すとは、怪しげな存在だな。
人の持つエネルギーは魔術で増えたり減ったりするものではない。
健康でいるときは当然満ちているし、病を患えば少なくなってしまう。
それが人の定めであり、自然の摂理。
しかし、それに逆行したいと思う人もいる。
それが大切な家族であればなおさらのこと。

「黒魔術に手を出しているのか?」
「ええ、そのようです」

人の生命エネルギーを増幅させ、不治の病を治す唯一の方法。
それは、強いエネルギーを取り込むこと。
そうすれば、再び元気になれる。
だがそのためには、誰かからエネルギーを取り込まなくてはいけない。
当然、エネルギーを奪われた人は寿命を縮める結果となる。
要するに、誰かから命を奪いそれを与えて病気を治療したように見せかけるのだ。
これは完全に魔の所業。
魔導士のなせる業。

「その魔導士について調べてくれ」
「はい」

さあ、厄介な者が出てきたぞ。
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