雲居の神子たち
町のほぼ中心にあり、大きな間口で両替商を営む法月堂。

例の男の米問屋に比べれば小さいが、高い壁に囲まれた立派な屋敷に見える。

「ここの主はほとんど姿を現さないが、噂によると女主人らしい」

「くわしいな」
影の報告を待つよりも先に石見が口にして驚いた。

「別に詳しくなんてない。ただの噂だ」

「そうか、詳しく聞かせてくれ」
今は少しでも情報が欲しいんだ。

「ここは15年ほど前に開かれた店で、主はめっぽう美人だって噂だが、実際見たって人間は多くない。なんでも霊感があり神様の声が聞こえるらしく、祈祷で病を治すって評判だ」

ふーん。
やっぱり術を施しているんだな。

「巫女なのか?」
「いや、そうではないらしいが・・・」
石見が言いよどんだ。

「何だ、教えてくれ」

「目が、金色に輝いているそうだ」

へぇー。

金色の瞳。
古の物語の中に、金色の瞳を持つ者の話があった気がする。
確か、異端と扱われ迫害を受け最終的に魔神となって炎の中に身を投じた。
そんな悲しい話だったが。

「稲早はここにいるのか?」
心配そうな顔をした石見が、俺を見ている。

「わからないが、可能性は高い」

「そうか」

ここにいるってことはかなり厄介だと思うが、ここにいてほしいとも思う。
とにかく、影の報告を待ってここに乗り込むしかなさそうだ。
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