雲居の神子たち
里の桜祭り。
川沿いの長い桜並木。
いくつもの灯りが木々を照らしている。

「うわー」
ヒラヒラと舞い落ちる桜の花びらに、八雲が目を輝かせる。

本当に、なんて綺麗なんだろう。
小さな頃にも来たはずなのに、食べ物や夜店の記憶ばかりで桜を見た覚えがない。

広場に組まれたやぐらの上からは、太鼓や笛の音が響いている。
行き交う人々もみな笑顔。

「俺、桜餅買ってくるね」
須佐はすでに食い気に走っている。

「あまり遠くに行かないでね」

声はかけたけれど、きっと聞こえていないと思う。
すでに、須佐の姿は見えない。

「稲早、なんだか寒いね」
八雲が上着の襟元を閉める。

「そうね」
私も襟巻きを巻き直した。

桜祭りは雪解けを祝う祭り。
道端にはまだ残雪が残る。
長い冬を耐えしのいだからこそ、この桜の美しさは格別なのかもしれない。

八雲も私も須佐も、山を下りるときに着替えてきた。
普段の神職姿ではなく、町の子が着るような普段着。
目立たないように、地味な物を選び、
長い髪も無造作に結んだ。

「稲早、見て。かわいい」
桜色の小さな髪飾りを手に、八雲の笑顔がこぼれる。
「ほんと、かわいいね」
私も同じ物を手にした。

「稲早には桃色ね。私は、紫」
八雲が色を選び、髪にあててみる。
さすが、よく分かっている。

つやのある黒髪を肩まで伸ばした八雲。
鼻筋の通った高い鼻。
大きな瞳は、漆黒。
唇は、紅を差したような赤。
神秘的な雰囲気が漂う八雲には、紫色がよく似合う。

一方、私の髪は薄茶色。
日に当たると金色に見えたりもする。
綺麗と言えば綺麗だが・・・気持ち悪いと言われることの方が多い。
肌は透けるように白く、瞳は焦げ茶。
とにかく、色が薄い。
そういう意味では、八雲が選んだ桃色の髪飾りがよく似合うはず。
< 9 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop