雲居の神子たち
これで深山に帰られる。
元の生活に戻れる。
ホッとして尊の腕の中で目を閉じようとした時、

「やっぱりこのまま返すのは嫌だねえ」
女が剣とろうそくを両手に持って笑っている。

「何をする気だ?」
石見が声を上げ、須佐が身構える。

次の瞬間、ガラス瓶に入っていた私の血液が割れて飛び散り、霧となって部屋中に舞った。
そして女が何やら呪文を唱えろうそくの炎が霧となった血液に引火する。

ボッ。
一瞬にして部屋中が炎に包まれた。

「息を止めろ、吸い込むな、体の中が焼けるぞ」
尊の叫び声。

私は近くにあったシートをかけられ尊に抱きしめられた。

熱い。でも、我慢できない暑さではない。
それは火というよりも熱風のような感じ。
尊の言う通り、息を止めじっと炎が消えるのを待った。

数十秒後、部屋を覆っていた炎は消え、同時に女の姿も消えていた。
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