捨て猫は関西弁男子
そうして先程まで武蔵が着ていた服に手を伸ばして気が付いた。
「この服…。」
「あ、それクローゼットにあったから拝借したわ。勝手にすまんな。」
「うん。それは全然いいんだけど…。」
ストライプのシャツに黒のスキニー。
懐かしすぎるその服は元カレのものだ。
家に泊まった時に忘れたんだっけ。
別れたのにまだ処分していなかったとは私も大概諦めが悪い。




元カレは名門のK大卒の社会人。
六本木の商社でバリバリ働くいわゆるハイスペック男子だった。
女の子の扱いに慣れていて、デートはお洒落なところへ連れて行ってくれるし、朝帰りした時は大学まで車で送ってくれた。
本当に素敵な人だったから私は彼につり合うような女性になりたくて、必死に女を磨いた。
好きでもない綺麗めファッションに身を包み、ブランドもののミニバックを持って、彼に好かれるようになんでも言うことを聞いた。
本当は大食いなのに彼とご飯を食べる時は少食なフリして「もうお腹いっぱい〜」って言ってみたり、足が痛くてたまらないのに無理してピンヒールを履いてデートに行ったり、今思えばあの時の私は頑張りすぎていた。
別れ際に彼から言われた。
「楓は僕といる時、心から笑ってないような気がするんだよね。」
無理していたことがバレていたようだ。
元カレと別れた後、私はピンヒールもミニバックも綺麗めな服も全てやめた。
私には向いていなかった。
ただそれだけのこと。
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