江藤くんはループしがち
数学の授業を終えてあたしはそっと隣に視線を向けた。


よし、江藤君はまだ耳にイヤホンをつけていない!


このタイミングで話かければいいんだ!


そう思って「あのっ」と声に出した直後「江藤~、数学の教科書貸してくれねぇ?」と、教室前方のドアから声がした。


江藤君がそちらへ向くのであたしもつられて視線を向ける。


立っていたのは炉なりのクラスの男子だ。


「あぁ、あるよ」


江藤君は数学の教科書を持ってドアへと近づいていく。


その様子をいじらしい気分で待つあたし。


これじゃまるで、片思いの相手に話しかけるタイミングを探しているみたいだ。


そう思って強く左右に首を振った。


「そ、そんなんじゃないから」


ループから脱出するためだし!


と思ってつい声に出したとき「そんなんじゃないってなにが?」と、声をかけられた。


突然のことで驚いて椅子ごとひっくり返ってしまいそうになる。


いつの間にか里香が立っていたのだ。


「な、なんでもない」


あたしが苦笑いを浮かべている間に江藤君は自分の席に戻り、そしてイヤホンを耳につけてしまったのだった。
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