江藤くんはループしがち
☆☆☆

「最近ループはしてないの?」


里香にそう言われたのは昼休憩中のことだった。


あたしと里香はいつもどおり机をくっつけてお弁当を広げている。


「うん、してないよ」


あたしはもぐもぐと口を動かしながら答える。


最近の江藤くんはとても安定しているようで、もう毎日を繰り返すようなことはなくなっていた。


前回、朝のホームルームから終わりのホームルームまでを4度も繰り返したときのことを思い出すと、今でも疲れ果ててしまう。


あのとき、ループしていることに気がついたあたしは4度も持久走を経験することになったのだから。


あの日の夜は夢も見ずにぐっすりと眠った。


「そっか。それっていいことなんだよね?」


「もちろんだよ! 江藤くんに心残りとか、そういうものがないってことなんだからね」


あたしはうんうんとうなづいてご飯を口に入れる。


そして梅干のすっぱさに口をすぼめた。


「でもいいよね江藤くん、何度もやり直すことができるなんてさぁ」


里香が羨ましそうに言うので、あたしは顔をしかめた。


「本人がループしてることに気がついてないんだから、やり直しなんてできないよ」


「だからこそ、亜美がいるんでしょう?」


そう言われてご飯が喉に詰まりそうになってしまった。


そりゃああたしは人より敏感でループしていることに気がつくことができる。


だからってそれを頼りにされちゃあたまったもんじゃない。


あたしはもう里香の言葉に返事をせずに、ご飯を食べるのことにし集中したのだった。
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