江藤くんはループしがち
☆☆☆

少し早めにお昼ご飯を食べ終えたあたしと里香は2人でグラウンドへ出てきていた。


花粉と、グラウンドの砂埃のせいで涙と鼻水が止まらない。


江藤くんの様子を確認したくても、常に涙目になっていてそれもままならなかった。


「ごめん里香。江藤くんになにか変化があったら教えてくれない?」


「わかった。メッセージするから亜美は教室に戻ってなよ」


泣きじゃくっているあたしを見て里香はすぐに了承してくれたのだった。


それから教室に戻ったあたしは窓の内側から江藤くんの姿を確認していた。


江藤くんは誰よりもコート内を走り回り活躍しているみたいだ。


「ねぇねぇ男子たちがサッカーしてるよ!」


教室内にいた女子たちが気がつき、窓辺に近づいてきた。


あたしは押しのけられるようにして横へと移動する。


ちょっとムッとしたけれど、顔には出さないように気をつけた。


「本当だ!」


「ねぇ、江藤くんって最近かっこよくない?」


その声に敏感に反応して顔を向けてしまった。


クラス内でも一番可愛いと人気の女の子だ。


「わかる! 前から運動神経よかったけれど、最近はサッカー部に入って更に磨きがかかったみたいだよ」


江藤くん、サッカー部に入ってたんだ。


だからグランドで走っている江藤くんはいい動きをしているのだと納得できた。


でも同時になにも知らなかったことに寂しさを感じる。


隣の席なんだし、教えてほしかったなーなんて……。


そんなことを考えている間に江藤くんが得点を入れたようで、教室内には黄色い悲鳴が響き渡った。


ゴールを決めた江藤くんは友人たちから囲まれて喜んでいる。


その姿を見るのは嬉しかったけれど、あたしの気持ちはどこか複雑なままだったのだった。
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