江藤くんはループしがち
動物の病気は見た目だけじゃわからないことも多い。


きっとくぅちゃんもそういう病気に知らない間にかかっていたんだろう。


なんだか切ない気分になって、里香の顔を真っ直ぐ見ることができなかった。


「最初は悲しくてずっと泣いてた。一緒にいたのに病気に気がついてあげられなくてごめんって、ずっと謝ってた。だけど一ヶ月二ヶ月経つとね、だんだんくぅちゃんのことを思い出す時間が減っていったの」


里香は一旦話を切った。


「でも、それは普通だよね? ずっと引きずっていることなんてできないもん」


「そうだね。それはわかってるんだけど、でもすごく辛かったよ」


「辛い?」


前を向き始めるのはいいことだと思っていた。


前を向く本人が辛いなんて、考えたこともなかった。


「うん。だって、あれだけ大好きだったくぅちゃんのことを、いつか自分は忘れるんじゃないかって思って。すごく辛くて、怖かった」


忘れてしまう……。


人から見れば前を向くようになったと感じても、本人からすれば大切な人を忘れてしまうという恐怖を抱いていることもある。


初めて知って、あたしは目を見開いた。


もし江藤くんの中でもそういうことが起きていたら?


今日1日生徒手帳を開かなかったことに、恐怖を抱いていたりしたら?


今回の心残りは、それかもしれない。


「江藤くんになんて伝えればいいと思う?」


聞くと、里香はニッコリと微笑んだ。
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