江藤くんはループしがち
☆☆☆

江藤くんがサッカーから戻ってきたとき、あたしはいつもよりぎこちなく話しかけた。


「相手を思い出す時間が短くなるのは、怖いことじゃないよ」


突然そんなことを言い出したあたしに目を見開き「え?」と、首をかしげる江藤くん。


だけどあたしは話を続けた。


「自分が覚えている限り相手は江藤くんの胸の中に生きているの。だから、どんなに前を向いて歩いて行っても、大丈夫なんだよ」


そう言うと、江藤くんがハッとしたように息を飲み、胸ポケットに手を触れた。


あたしはめまいに備えてギュッと目を瞑る。


しかし、いつまで待ってもめまいは襲ってこなかった。


そっと目を開いてみると、世界もゆがんでいない。


「俺、今日1日も生徒手帳を見なかった」


江藤くんが呆然として呟く。


「うん……」


「でも、それって悪いことじゃないんだよな?」


江藤くんの言葉にあたしは大きくうなづいた。


あたしは大切な人を失った経験がない。


だから偉そうなことはいえないけれど、きっと真央ちゃんは江藤くんがループすることなんて望んでいないと思う。


だから、これでいいんだ。
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