江藤くんはループしがち
「まずは自己紹介しようか」


一番端に立っていた里香が言い、真央ちゃんの誕生会は始まったのだった。


時間は予定通り、1時間くらいで終わることになった。


その間に真央ちゃんの病室には次々と誕生日プレゼントが積みあがり、テーブルの上には料理部の生徒たちが作ったホールのケーキが乗っていた。


「一度でいいから、沢山の友達を呼んで誕生日会をしたかったの」


ベッドの上で横になった真央ちゃんが呟く。


その頬はまだ興奮冷めやらぬ様子で、赤くなったままだ。


5人ずつで病室を訪れたクラスメートたちはプレゼントを渡すだけじゃなく、マジックを見せたり、小さな声で歌を歌ったりと、それぞれに出し物まで用意してくれていた。


それを見ているときの真央ちゃんは終始笑顔で、今日ここに来てよかったと心から思えた。


「入院してからはそういうのできなかったもんな」


江藤君が真央ちゃんの手を握って言う。


「うん。だから、こんな風にお祝いされるなんて本当に夢みたいだった」


残っている飾り付けを見て真央ちゃんは微笑む。


でも、これもすぐに外さないといけない。


いつでも、お祭りの後は静けさが残るものだ。


「あら、この横断幕はまだ残しておけばいいのに」


そう言ったのはドア付近で様子を見ていた看護師さんだった。


「え、いいんですか?」


江藤君が驚いて声を上げる。


「もちろん。こんなに素敵な飾りつけだもの。すぐに取るなんてもったいないわよ」


病院中央まで歩いてきて横断幕を見つめる看護師さん。


その表情はとても優しかった。


「よかったな真央」


江藤君の言葉に真央ちゃんは大きく頷いたのだった。
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