江藤くんはループしがち
☆☆☆

2月の空気はまだ冷たい。


あたしは緑のチェック柄のマフラーを巻いて学校への道のりを歩いていた。


学校へ近づくにつれて生徒たちの姿が増えていく。


みんな寒さから逃げるように足早に校舎の中に吸い込まれていく。


2年A組のドアを明けたとき、暖かな空気がフワリと包み込んできた。


教室中央に置かれているストーブが赤々と火をつけている。


「おはよ亜美」


いつもの調子で声をかけてきたのは里香だ。


しかし、里香の表情はどこか暗い。


「どうしたの?」


自分の席へ向かいながら聞くと、里香は黒板横に掲示されている時間割を指差した。


「今日の6時間目の体育が憂鬱でさぁ」


時間割を確認すると、確かに今日の6時間目は体育の授業になっている。


最後の授業が体育になっていることが面倒なんだろうか。


着替えをしたあと、すぐ掃除をしなきゃいけないし。


そんなことを考えていると、「持久走だって言ってたじゃん」と、里香が嘆く。


そういえば、前回の体育のときに先生がそんなことを言っていた気がする。


20分間でグラウンドを何週できるかタイムを計るという。


江藤くんのループを止めることに頭がいっぱいでつい忘れてしまっていたけれど、20分もグラウンドを走るという事実にめまいがした。
< 69 / 121 >

この作品をシェア

pagetop