江藤くんはループしがち
☆☆☆

どれだけ嫌な授業でも時間が来ればやるしかない。


里香とあたしは体操着に着替えてグラウンドに出てきていた。


まだウォーミングアップ前だから寒くて仕方ない。


グラウンドの隅では見学している生徒が三角座りをして寒さをしのいでいるが、今日の見学組はやけに多い気がした。


絶対にサボりだ……。


そう思っても声には出さない。


羨ましいと思う反面、持久走の記録は後日でも行うと聞いていたことを思い出していた。


今日授業に参加していない生徒たちは、後日、放課後に呼び出されて走ることになるそうだ。


それなら嫌でも今日終わらせてしまった方がよかった。


グランドの半分を使って男子たちも集まってきていた。


その中の江藤くんの姿をつい目で探してしまう。


「亜美、最近ずっと江藤くんのこと見てない?」


里香に声をかけられて、あたしは慌てて江藤くんから視線をそらした。


「べ、別にそんなんじゃないし!」


「その慌てっぷり、怪しいなぁ?」


里香はニヤニヤと意地悪く笑っている。


「江藤くんを観察してたから、その癖がぬけないだけだって!」


実際にそうだった。


もうループすることはないと思っていても、つい江藤くんへ視線を向けてしまう。


ループから開放されてまだ2日目だから、それは許してほしい。


「ずっと観察してて好きになっちゃったりして」


「そんなわけないでしょ!」


あたしは里香に怒り、こぶしを作ってみせたのだった。
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