平成極上契約結婚【元号旦那様シリーズ平成編】
「明日香、支度はOK?」

「あ、うん」

鏡の前で突っ立っていた私はひとみの声で我に返り、仕事用の三センチの紺のヒールを脱いでクリーム色の五センチのハイヒールを履き替えた。

私たちがふたりでよく出掛けるのは同僚たちに知られており、何も聞かれることなく更衣室のドアへ向かう。

「おつかれさまでした」

私はまだ更衣室にいる同僚や先輩に挨拶をして廊下へ出た。

着替えとメイクでかれこれ二十分かかってしまった。

「明日香、タクシーで行く?」

「そうだね。タクシーの方がめんどくさくないね」

私たちは通用口から外に出て会社から少し離れた通りの道路脇に立った。

数分後、空車のタクシーがやって来て私たちの前で止まった。

タクシーの後部座席に乗り込む。

運転手の方へ身を乗り出して紀尾井町にある高級ホテルを告げたひとみは、深く座り直し座席に体を預ける。

「楽しみだわ。芸能人とか居そうよね」

「たぶんいるんじゃないかな」

兄が招待状を渡してくれたとき、芸能人も来るらしいぞと、言っていたのを思い出す。

「あら? 明日香、うれしくないの? あ、またお見合いの件?」

「まあ、それもあるけど、実は今朝佐山さんからデートに誘われたの」

「えっ!?」

ひとみは目を丸くして私を食い入るように見つめてくる。
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