平成極上契約結婚【元号旦那様シリーズ平成編】
心の中でため息をついてから口を開く。

「お父さん、まだお見合いはしたくないの。まだまだ働きたいの」

「そうしているうちに、売れ残ってしまうぞ?」

「売れ残ってもいいの。まだまだやりたいこともあるし」

「やりたいこととはなんなんだ?」

あー言ってもこう返される。議員である父の口のうまさに私が勝てるはずはない。上手く丸め込まれないように気持ちを引き締める。

「仕事は楽しいし、色々な国へ行ってみたいし、友達と気軽に食事をしたいの」

「私が勧める木下くんなら旅行へも連れて行ってくれるだろうし、友人との付き合いも制限しないだろう」

「お父さん、私はお見合いで結婚はしたくないの。お兄ちゃんたちはうまくいったけれど、性格が合わないことだってあるでしょう?」

私の反論に父は苦虫を嚙み潰したような顔になる。それでも意志は固いようで、「ちゃんと身上書と写真を見なさい」と言った。

私と父の攻防の最中、誰も意見を口にしなかった。ここでは父が絶対だから、下手に何か言って機嫌を損ねたくないのだろう。

話を長引かせたくないから、誰かに意見を言ってほしいわけではないが。

「まだリビングのテーブルにある。必ず部屋へ持って行ってよく見るんだ」

円城寺さんと女性の姿がまだ目の前にちらついていて、気持ちは落ち込むけど、すぐに結婚したくないのは本当だ。

この場を治めたくて、とりあえず私は頷いた。
< 42 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop