貧乏国の悪役令嬢、金儲けに必死になってたら婚約破棄されました【短編】
「ええ、まぁ、公爵家では伝統の味ですと、いつも同じものをお出ししておりますが……」
 サラ、それは言わない約束でしょう。貧乏だから、珍しいものを取り寄せたり作ったりする予算がないのよ。節約節約。でも、伝統って言えばだれも疑わないの。ね?便利な言葉よね。
「高く、売れる。ねぇ、そう思わない?香木のように、貴重な品と思わせれば、美味しいお菓子のためにとそれでも、周辺国の上流階級の人たちが金を積んで買ってくれると思わない?」
 声を潜めてサラに話をする。
 すると、サラが、にやりと笑った。
「お嬢様、悪い顔をしておりますわ」
「サラ、あなたもね」
 そうと決まれば、街の人たちにむやみにシナモンを流通させないようにしなければならない。今のところ、シナモンのある場所を知っていて持ち帰っているのは木こりだけのようだから、木こりに話を聞き、シナモンがが生えている場所は立ち入り禁止区域に指定。許可のあるもののみシナモンを取り扱えるようにしなければね。そして、シナモンが木の皮だという情報を街の人たちには口にしないようにお願いして回らなければ。
 あと、お菓子屋に行き試食もしなければね。どのようなものに一番合うのか。
 それから、あとは……シナモンを持ち帰り、うちのシェフに研究させ、仕上げは……。
 と、いろいろと考えているところに、エイト君がドーンとともに店に入ってきた。
「残念ながら、香木は見つかりませんでした」
 しゅんっと肩を落としています。
「ふっ、そう、残念だったわね。ところで、エイト君、私たちちょっと急用ができたから、家に帰ることにしたの。ここで分かれましょう」
 せっかく国内を回るつもりだったエイト君たちまで戻ることはない。と、親切心で提案したんだけど、エイト君が泣きそうな顔になった。
 ひー、天使の顔が曇っているぅぅぅ。
 誰ですか、こんな顔をさせたのは!天罰が下りますよ!
「僕と旅するのがそんなに迷惑でしたか?僕のこと、嫌いですか?」
 ひー、天使が切なそうな顔して私を見上げています。
 誰ですか!こんな顔をさせたのは!天罰が下ってもいいからぎゅってしたくなるでしょう!
 おっと、だめだめ。
 これでも、私、婚約者のいる身ですから。いくら年下の男の子とはいえ、体が触れ合うようなことをしてはいけません。
 我慢なのですよ。
「いいえ、あの、本当に、急に用事が……」
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