貧乏国の悪役令嬢、金儲けに必死になってたら婚約破棄されました【短編】
「お嬢様、虫よけって言葉、大事な娘を持つ父親たちにも縁起物として売れませんでしょうか。実際はぶーんと飛ぶ虫への効果でしょうが、この香りを身に着けている娘に手を出したら八つ裂きにするぞみたいな目印的な……」
「サラ、お主も悪よのぉ」
 くくく、くくくく。
 二人でひそひそ笑いあっていると、お店の人が声をかけてきた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ええ、とてもいい匂いがしますわ(お金の)」
「はい、気に入りました(金になりそうで)」
 笑顔で手を振って店を出る。

 食堂でエイトくんとドーンと合流する。
「お姉様、なんだかとても嬉しそうな顔をしています」
 ギクリ。
 お金の匂いが……いえ。えっと。
「とても美味しそうなお菓子を変えましたの。日持ちしないものは、その、帰りの馬車でご一緒にいかがですか?」
 う、うそじゃないよ。これは嘘じゃない。
「僕の分も買ってくれたんですか?」
 エイトくんの表情がぱぁーっと明るくなった。
「ドーンさんにはパンを買いましたわ」
 お菓子が苦手と言っていたのを忘れていくつかは買っちゃったけど私とサラで食べるからもんだいない。
「お、おう、パンか!パンなら俺も食べられるな!」
 ドーンがニコニコいい笑顔です。
 うん、みんな笑顔。
 私とサラはお金の匂い(になりそうなもの)につつまれて笑顔。
 ドーンさんは食べ物もらって笑顔。
 エイトくんは……。
「お菓子、好きなの?」
 お菓子をもらって笑顔って、なんだか子供みたいで。天使の顔したエイトくん、12,3歳にしてはもう少し考え方が大人だと思っていたけれど、やっぱり、まだ子供なんですね。
「お姉様からいただくものは、大好きです」
 にこにこ笑っている。
 え?

 それって、私の味覚を信用してくれているっていうことかな?
 まだ、食べる前なのに。
 あ、もしかして、あの食堂の食事「おいしかったでですよ」と伝えたけど、エイトくんは本当に美味しかったと思ったのかなぁ。
 そうかぁ。
 また、美味しい物見つけたらエイトくんに食べさせてあげよう。
 あ、でも金になるもののことは教えてあげられません。秘密です。
 エイト君がお家の商売のために売れそうな物を探しているのに協力したい気持ちもないことはないんですよ。
 だって、天使様の笑顔を無料で堪能してるのって、心苦しい。
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