貧乏国の悪役令嬢、金儲けに必死になってたら婚約破棄されました【短編】
 婚約者と言っても、相変わらず会うのは年に2~3回。学校では会釈を交わすどころか、見ないふりをされるようになった。
 ……。それとも、本当に私がいることに気が付いていないかもしれない。
 王子はいつも、特待生の女の子を見ている。
 恋。
 もしかして、王子はその子に恋をしているのかもしれない。
 王は、側室を持つことができるのだから、何も問題ではない。
 だけれど、王妃となれば王以外の男性に思いを寄せれば身の破滅を意味する。
 恋なんて……。
「許されることではないわ……」
 ぼそりと出た言葉に、エイト君が苦しそうな顔をした。
「人を好きになることは自由ですよ……誰の許しもいらない……いいや、許されなくたって止めることなど……」
 随分大人びたことを言う。
 だけれど、その言葉に賛同するわけにはいかない。
 許されるわけがない。
 王妃が王以外のものの手をとるなど。
 恋は盲目ともいう。唆されて王を陥れるための片棒を担がされないとも限らない。
「誰の許しもいらないかもしれませんが、自分自身が許しません」
 私はこの貧乏国の王妃になると決めたのだ。国のため、国民のため、この身をささげると。
 恋など、必要ない。
 ふわりと、エイト君の香りに包まれた。
 ぎゅっと、ぎゅぅーっと、力強く抱きしめられている。
 ああ、もう背丈も私より高くなってしまった。そして、しっかりと筋肉がつき始めていて、天使のようなかわいらしい顔は、大天使様のようにかっこよくなってきた。
 それでも、それでもまだ、旅の終わりにこうして寂しがる姿は変わらないんだ。
「お姉様と、もっと旅がしたかったのに……」
 婚約者のある身で、別の男性に抱きしめられるなんてあってはならないこと。
 だけど、エイト君は子供だし。セーフだと、そう言い聞かせてたけど。
 もう、ダメね。
 誰も子供だなんて、見てくれないよね。
 私のことも、もう子供だからと、許してはくれないでしょう。
 胸が熱くなる。
 頬を涙が伝う。
「そうね、エイト君と旅するのはとても楽しかった……」
 次の長期休暇が楽しみで、何日か前からワクワクしていた。
 だけれど、そんな子供の時間は終わり。
 来年には私は学校を卒業する。そして、王子の婚約者として2年間王宮で色々なことを学び結婚する。
 もう、私に長期休暇は訪れない。
「忘れない……」
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