貧乏国の悪役令嬢、金儲けに必死になってたら婚約破棄されました【短編】
 という私の言葉に、エイト君が
「忘れられない」
 と返した。
 思わず小さく頷く。
「忘れたくない」
 というエイト君の言葉にも頷く。
 忘れられない、忘れたくない。
 だけれど、忘れなくてはいけない。忘れたふりをして心に蓋をしなければ。
 これ以上は許されない。
 こうしているだけで、胸のドキドキが収まらなくて、その手を取って好きだと伝えたくて。
 恋なんて、とっくにしてる。
 だけど、これが恋だと気がついちゃいけなかったんだ。
 いけなかったんだよ。
 気が付いてしまったから、もう、会うわけにはいかない。



「さようなら」




 あれから1年と少しが立ちました。
 そう、エイト君と別れてから、1年と少し。
 お金儲けの手段は順調に発展中です。
 で、今日は学校の卒業記念パーティー。

「もう一度言おう、公爵令嬢リアーナ、今ここで、皇太子ファルコの名に置いて、貴女との婚約は解消する」
 そう、そうです。
 婚約解消を言い渡されてしまったのでした。
 本当にどうしたらいいのでしょう。
 はぁっと、小さくため息がでた。
 第一王子ファルコ様の横には、特待生のミリーがにっこりとほほ笑んでいる。
「まさか、ミリーさんを新しい婚約者にとお考えで?」
 ミリーは庶民だ。
 別に庶民を馬鹿にするつもりなどこれっぽっちもない。
 むしろ、貴族なんかよりもよほど質素倹約つつましく生活している人もいる。
 そして、商家の者であれば私なんかよりもよっぽど金儲けに長けた者もいる。
 まぁ、つまり……。
 初めから、庶民で商才に長けた人と婚約すればよかったんじゃない?
 私の、苦労は何だったんだろう。
 いや、苦労はしてないけど、決意は……。
「突然のことで、口もきけないようだな」
 ふんっとファルコ様が鼻を鳴らした。
「理由をお聞かせ願えますか?」
 ミリーの方が妃になるのにふさわしいと言う理由を聞けば、私のこの4年間の努力不足だと分かれば……。
 苦労はなんだったのかなんて思わずにすむ。
「はっ、まさか、白を切るつもりか?ミリーに対する数々の非道な振る舞い」
 え?
 ええ?
「わ、私が、ミリーさんに非道な振る舞い?」
 まったく身に覚えがありません。
 いやいや、だって、そもそも、動機もないし。
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