貧乏国の悪役令嬢、金儲けに必死になってたら婚約破棄されました【短編】
「じゃぁ、これ、馬車に積んでください」
 さっそくサラは袋3つ分の荷物をドーンに渡した。
「じゃぁ、僕たちも馬車に乗り込みましょう。おねーさま、どうぞ」
 馬車といっても、幌馬車だ。
 普通の馬車よりも便利だし安全だし、金がかからない。
 座るだけの馬車より、幌の中は、広くて野宿が必要になったときにはしっかり眠れるテントに早変わり。
 金儲けの品を見つけたら積み込んで持って帰ることもできる。
 さらに、入り口付近には干し草を積むことで、ただの農民の移動中だと思わせて山賊そのほかから身を守ることもできるという。
 あ、あと、安いです。単純に、黒塗り馬車1台のお値段の100分の1くらい。
 エイト君が、馬車に乗り込むために私にそっと手を差し出してくれた。
 踏み台上がって乗らないといけない高さなのだ。
 天使のエイト君の手にそっと手を乗せる。
「ところで、なぜおねーさまって呼ぶのかしら?」
 ふと、気になっていたことを尋ねてみた。
「「「え?」」」
 エイト君と、サラとドーンの声が重なる。
 何?
 私、変なこと聞いた?
「僕のこと、知らない?」
「お嬢様、エイト様のことご存知ありませんか?」
「ぶはははは、坊ちゃん知られてない~」
 え?
 どういう、こと?
 なんか、知っていて当然って話になってます。
 はっ、ま、まさか。
「お、お父様の、隠し子?」
 サラが顔を青くした。
「そんなはずあるわけないですかっ!」
 ですよねー。
「ぶはははははは、本当に、面白い嬢ちゃんだ。気に入った。気に入った」
 って、笑いすぎだろう、ドーンっ!
「当然知っているものとして、いきなりおねーさまと呼んでしまったことはお詫びいたします。どのようにお呼びすればよろしいでしょうか?」
 ん?
 知っているものとして……。

 天使なエイト君の顔を見る。
 うん、わかった!かわいすぎて、おねーちゃまとか周りの人を呼んで笑顔で癒してきた人に違いない。そうに違いない。
「庶民のふりする旅になるから、えーっと、姉さん?……似てないから家族に見えないかな?」
「リアーナ姉さん、サラ姉さん、それから……」
 エイト君がドーンさんの顔を見た。
「父さん」
「坊ちゃんっ~」
 あ、涙目だ。
「ふふふふ、ふふふ。サラ姉さんのお婿さんって設定でどう?」
「えー、夫婦のふりですか?」
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