貧乏国の悪役令嬢、金儲けに必死になってたら婚約破棄されました【短編】
 木を運ぶなんて大変だもんね。近くで手に入るならわざわざ遠くから買うわけないか。しかも、木は宝石とちがい庶民も使う品だもんなぁ。高くなっては買ってもらえない。うーん、そう考えると、効果で輸送に便利な宝石ってすごい一品なんだねぇ。
「例外的に、遠方からでも買い入れようとする木は、香木くらいでしょうかね」
 香木?
「香木って何?」
 興奮気味にエイト君に前のめりになって聞く。

「あ、」
 エイト君がとっさに後ろにのけぞった。
 ごめん。近づきすぎた。
「香りのよい木です……その……」
 がさがさとエイト君が荷物の一つから小さなきんちゃく袋を取り出し、その中から小指の先ほどの木片を取り出した。
「熱するとよい香りがします。そのままだとあまり香りませんが……」
 木片を手にのせてくれる。目いっぱい鼻に近づけて匂いを嗅ぐ。
「あ、これ、知ってるっ!嗅いだことあるっ。えーっと、えーっと、そう!思い出した!お后様だ!時々お后様のドレスから香りがする!」
 エイト君がちょっとぎくりと体を固くする。
「そ、そうです、その、お后様から少しお借りしました」
 と、慌てて言うけど、別にお后様から盗んだなんて思ってないよ。
 あ、それとももしかして……お后様のファンで、匂いを嗅いでいたいとかいうおませさん?
「香木がどこかにないかと、せっかく国内を回るのですから、ついでに探してみようかと」
 ふぅーん。
 ちょっと疑いのまなざしをエイト君に向ける。
 ついでとか言っていて、本命だったりして。香木は高く売れるって知って、商売にしようと……。
 なんだ、じゃぁ、目的は一緒じゃない?
 って、違うか!個人の収入にするためじゃなくて、私が目指すのは、国の産業となりうるものなんだから!エイト君より先に見つけなくちゃなの!
「負けませんわよ!」
「え?あの、リアーナ姉さん、何が?」
 休憩のために、馬車が止まる。
 それ!
 馬車を飛び降り、山の中にかけていく。
 木の匂いを嗅ぐ。違う。
 木の匂いを嗅ぐ。違う。
 違う、違う、違う!どの木もちがーーーーうっ!
 手あたり次第、木の枝を折って匂いを嗅いでいくけれど、香木の匂いじゃないっ。
「何してるんですか、姉さん……」
「な、何って、そりゃ香木を探してるんですっ」
 ドーンがエイト君の後ろで腹を抱えて肩をゆすっている。
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