貧乏国の悪役令嬢、金儲けに必死になってたら婚約破棄されました【短編】
 ウエイトレスさんが、ランチに乗っているリンゴを煮たようなデザートを指さした。
 そう、ランチは木の皿に、パンと肉を焼いたものと、野菜をいためたものと、リンゴの似たような物と豪華な内容だったのだ。
 ……確かに、リンゴはいい匂いだけど……。そうじゃない。
「えーっと、リンゴの木のことじゃなくて……」
 と、微妙な顔を見せると、サラが目をかっぴらいた。
「おじょうs……リアーナ、食べてみて。リンゴがおいしいですよ!これ、今までに一度も食べたことのない風味が」
 え?
 言われてリンゴの煮たようなものを口に入れる。
 ふわりと、鼻に抜ける香りがすっきりとしていてリンゴの甘味を引き立て……。
「おいしい……」
 味というよりも香りがおいしい。不思議な感覚だ。
「ふふ、良かった。最近この街でブームなのよ。そのいい匂いの木を使ったお菓子が。うちは食堂だからちゃんとしたお菓子は出せないけどね。リンゴを煮るときにちょっと足すだけでおいしいでしょう」
 お菓子の材料……?
「本当に美味しいですわ!そのいい匂いの木というのは、どこにあるんですか?お菓子ってどんなものに使われるのですか?それから」
「リアーナ、困っていらっしゃるわ、落ち着いて……」
 質問攻めにしてしまい、ウエイトレスさんが腰を引いている。
「ご、ごめんなさい」
「いいえ。そこまで気に入っていただけて嬉しいわ。シナモンっていうんですけど木の皮が独特の香りがするんです。ちょっと奥に行けばいくらでもあるのでお土産で木こりさんが持ち帰って来てくれるわよ。それから、どんなお菓子ができるかは、4件向こうにお菓子屋さんがあるのでそちらで聞くといいわよ。あと、隠し味に、パンと肉にもシナモンを使っているの。これは好みが分かれるんだけれどね」
 と、ウインク一つしてウエイトレスさんは仕事に戻っていった。
「パンもおいしいですよ、お嬢様」
「あら、本当。肉も今まで食べたことのない不思議な味だけど、美味しい。だけど、やっぱり私は、お菓子が一番いいと思うわ」
「そうですか?」
 サラが首を傾げた。

「お菓子は、上流階級が競い合って美味しいものを食べるものでしょう?庶民が食べているものと違うものを、ほかの貴族が夜会に出していないものをと、意地とプライドをかけて貴族が料理人に作らせるでしょう?」
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