カウントダウン
『もしも呪いを解きたいのなら、私が書いた遺書を探せ。

その遺書には呪いを解くカギがある。

私の思いがそこにある』


オレは忍がラインで送ってきたそのメッセージを思い出し、本当に忍の遺書がこの世に存在しているのかを考えた。


オレは家庭訪問で忍が住むアパートに行ったことがある。


この辺りでは最低ランクのボロボロのアパートだ。


そしてオレが忍のアパートに入った瞬間、言い訳のしようがないくらいの貧困の雰囲気がハッキリと伝わってきて、オレは早くこのアパートから出たいと思った。


ここにいたらこの家にある不幸が自分にも移ってしまう気がしたから。


しかも、その日、家庭訪問で会った忍の父は酒に酔っていたとオレは思う。


ろれつが回らない様子の忍の父を見ていると、あまり好きではない生徒の忍でさえも、かわいそうになってくる。


この様子では忍の父は働いていないだろうし、忍が愛されているとも思えない。


忍の暗くてネガティブな性格は、こんな最悪の家庭環境が影響しているに違いない。


オレはここにいなくてはならない時間が早く過ぎて欲しいと思っていた。


教師でしかないオレがこの家庭に口を出しても、忍の家庭環境は変わらないし、深く関わらないことが賢明な判断と言えるだろう。


教師が生徒に対してできることは限られている。


オレには自分のクラスの生徒を全員守ることなど、絶対にできないのだ。
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