カウントダウン
「フフフッ、フフフッ……。

ハハハハハハッ……」


命をかけて逃げようとしているオレを見て、忍は声を上げて笑っていた。


それはまるで逃げ場のない小動物を弄んでいる捕食者のようで、オレは自分がこんな状況に追い詰められるなんて、想像すらしていなかった。


(忍なんて、クラスで目立つこともなく、いつもうつ向いてばかりいた生徒だったのに……。

忍なんて……、忍なんて……)


そんなことを思いながら玄関に着くと、オレは靴を履く余裕もないままに、慌ててドアに手をかけた。


少しでも早くこのアパートを出るために。


でも次の瞬間、オレは予想もしていなかった展開に息が詰まって、心臓が飛び跳ねた。


玄関のドアをどんなに押しても、ドアがピクリとも動かないのだ。


もちろん、ドアにカギはかかっていないし、ちゃんとドアノブもひねっている。


こんなときにドアの故障?


でも、そんな偶然なんて……。


必死にドアを開けようとすればするほど、オレの焦りの気持ちが心の中で広がっていった。


このドアが開かなければ、オレは外に逃げられない。


オレは背後にいるはずの忍を意識しながら、この事実に絶望を感じていた。
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