カウントダウン
「ごめんください。

ごめんください」


雄一が二度、部屋の中にいるはずの忍の父に話しかけたが、部屋の中から返事はなかった。


それでも雄一は少しもめげずに、更に大きな声を出して、部屋の中にいるはずの忍の父に話しかけた。


「誰かいますか?

宮国中学の忍さんのクラスメイトの者ですが。

すみません。

誰かいますか?」


雄一がそう言った後、部屋の中で誰かが立ち上がった音が聞こえた。


そして返事こそなかったものの、部屋の中で誰かが歩いている様子がうかがえ、ゆっくりと部屋のドアが開いていった。


「お前ら誰だ?」


部屋から出てきたのは、酒に酔って顔を赤らめているひげ面の小柄な男だった。


その清潔感が少しもないスエット姿の男の人が忍の父だと私にはすぐにわかった。


そして忍の父を見た第一印象から忍が恵まれない家庭生活を送っていたことが容易に想像できて、私は忍に同情していた。


(もしもこの人が私の父だったら絶対に嫌だ。

まだ何も話していないのに、こんなにも嫌な感じがするのはなぜだろう?

でも、この人に頼るしかないんだ……。

忍の遺書を見つけるためには……)


私はそう思って忍の父に目を向けていた。


すると、意外にも忍の父から私たちに話しかけてきた。
< 215 / 294 >

この作品をシェア

pagetop