カウントダウン
お母さんとは三十分ほど話していた。


だけどその会話の中で、お互いの家庭のことは話さなかった。


お互いの家庭のことを話してみても、お母さんと私たちの関係が修復不可能なことはわかっている。


知れば悲しみが深まったり、知らなかった方が良いことはたくさんあるのだ。


私とお母さんは席を立ち、お互いの連絡先も交換しないで店を出た。


そして私たちは挨拶だけを交わして互いの道を歩き始めた。


私は後ろ髪を引かれる思いで、一歩、二歩とお母さんと反対方向に歩き始めたけど、なぜだか涙が込み上げてきて、歩くのを止めてしまった。


そして私は少し考え、涙を拭うと、振り返ってはいけないと思いながら、お母さんの方を振り返っていた。


でも、そこにはもうお母さんはいなかった。


人混みに紛れてお母さんは姿を消してしまったのだ。


それに気づいた私は歩道の真ん中で声を上げて泣いていた。


もしもあのとき、お母さんが家を出ていかなかったら、私の未来はどんな風に変わっていたのだろう?


そんな答えのない問いが、私の頭のパッと浮かんで消えていった。
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