カウントダウン
私たちと明恵が向かい合って席に座り、飲み物の注文を注文した。


そして店員が席から去った後、明恵は私たちと向き合い、こう言った。


「忍のクラスメイトに会うことになるなんて思ってなかった。

私は忍を裏切って家を出ていったから、忍はきっと私のことを恨んでいたと思うの。

でも最近、そんな忍と偶然会って、このお店で話をしたの。

もう会うことも話すこともないと思っていたのに」


忍のお父さんも知っている私は、明恵が家を出たことで忍がつらい思いをしたことを容易に想像できた。


そして忍は明恵が言うように、明恵のことをきっと恨んでいたと思う。


信頼していた母親が急に家からいなくなるのは、本当にショッキングな裏切り行為だと思うから。


私はそんな自分の意見を口にせず、ただ明恵に目を向けていたとき、明恵は私たちに忍のことを聞いてきた。


「忍は学校でどんな子でした?

あなたたちは忍の友達でいいんですよね?」


明恵のその質問は答えづらい質問だった。


でも、雄一はそんな質問にも真剣な顔でちゃんと答えた。


「オレたちは忍さんと友達ではなかったです。

忍さんは友達がいなくて、しゃべらない人だったから、オレたちは本当の忍さんをよく知らなくて……」


雄一のその言葉に明恵の表情が少し曇った。


八年間会ってなくても、明恵は忍の母親なのだ。


忍に友達がいなかったことが、明恵には悲しいのだ。


「忍は学校でいじめられていたとか……。

その原因は何?」


再び投げかけられた答えづらい問いかけに、雄一は真剣な顔で答えていた。
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