カウントダウン
「忍さんは大人しくて、悪口を言われても何も言い返さなかったから、いじめられやすかったんだと思います。

だけどオレは、忍さんが死にたいと思うほどに傷ついているなんて思わなかった。

いじめを知っていて、何も言わなかったオレにも責任があります。

オレは自分以外のことに、いつも無関心で……」


雄一はそう言って明恵に謝っていたが、それは違うと、雄一の言葉を心の中で否定していた。


もしも本当に雄一が悪いのならば、私だってもちろん悪いし、忍のいじめを見て見ぬフリをした人はみんな悪い。


だけど、ほとんどの人は他人の心の痛みに無関心だ。


わざわざ正義感を振りかざして、弱い者を助けようとするのは偽善のように思えるから。


やっぱり私たちは「助けて!」と声を上げなかった忍を助けることができないのだ。


誰かを敵に回してまで、人は誰かを助けないから……。


「そうなの……」


明恵はそうつぶやいて、窓の外に目を向けた。


明恵は遠いところを見つめながら、いったい何を考えているんだろう?


そんなことを考えると、私の心が少し痛んだ。
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