都合のいいふたり
「何考えてるの?」

涼介の声に我に帰る。最近、私は感傷的になりがちだ。もう、そんな事にも慣れたはずなのに。

「もう冬だなと思って。冬は好きじゃない。」

「あゆは寒いの苦手?俺のマフラーで良ければ貸すけど。」

「そうじゃない、大丈夫。ありがと。」

涼介には感傷は似合わないけど、人の気持ちを察する天才だとは思う。

「俺、今年の正月は実家に帰るのやめようかなと思ってる。」

「何で?毎年、帰ってるでしょ。涼介のお母さんだって、帰って来るの楽しみにしてるだろうし。」

涼介のおばさまは、世話好きのとても優しい人だ。
高校時代に涼介の家に皆んなで遊びに行った時も、大量の夕ご飯を作ってくれたり、母子家庭で一人で過ごす時間の多かった私を何かと気遣ってくれた。

お母さんが亡くなった時も、私の将来を噂するばかりの大人達の中で、唯一、私の悲しみに寄り添い、励ましてくれた人だ。

涼介の優しさは、おばさま譲りなんだろう。

「いや、母さんには帰って来なくてもいいって言われた。今年は友達と年末年始に旅行に行きたいからって。」

「でも、おばさまはいなくても、お父さんや親戚だっているでしょ。それに地元の友達は?久々の再会とかあるんじゃないの?」

「あゆは、正月に俺が家にいると邪魔なの?」

「邪魔じゃないけど、私、お正月とか全然気にしないよ。お節も、お雑煮も、お餅すら食べないし。」

「いや、食べ物の事はどうでもいいよ。餅が食べたくなったら、スーパーで買って食べるし。」

最初から期待しないようにするのが、私の癖だ。喜びが大きいと、裏切られた時のダメージも大きい。
それなら最初から期待しない方が傷付かないで済む。

だから、涼介の「実家に帰らない宣言」に期待しそうな自分を必死に押さえ込もうとしていた。

「そうだけど、涼介の好きにすればいいと思うよ。プライベートな事だし。」

私はまた余計な一言を言ってしまった。

「プライベートの干渉は禁止だもんな。」

涼介が寂しそうに呟いたけど、私は返す言葉が見つけられなくて「ごめん。」と心の中で謝りながら、聞こえない振りをした。
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