都合のいいふたり
涼介は電車の中ではお正月の帰省の話はせず、いつもの他愛のない会話をしながら、私はウキウキした気持ちを取り戻していた。

映画館は人で溢れていた。
家族連れ、カップル、友達同士。
それぞれに楽しそうな時間を過ごしている。

私達は、周りからはどんな風に映っているのかな?
カップル?友達?

涼介がチケットを買いに行ってる間、私は壁に貼ってあるポスターを見ていた。

今、上映中の映画や次回作の宣伝。
映画館に来る機会はあまりなかったけど、映画を観るのは好きな方だ。レンタルやペイパービューは、私の週末の必須アイテムなぐらいに。

「お待たせ。チケット買えたよ。」

「今日は誘ってくれて、ありがとう。すごく楽しみになって来た。」

「観たい映画でも見つけた?」

「うん、面白そうなのがいっぱいあったよ。それに、ポップコーンも食べたい。」

「あゆでも子供みたいな事言うんだな。」

確かに、こんな風に自分の願望を声に出す事はあまりなかったのに、涼介の前なら平気だ。

「じゃあ、ポップコーンは後で買おうか。とりあえず、映画まで時間あるから昼飯を食べに行こう。」

私達は映画館が入っているビルのレントラン街へと向かった。

昼時のレストラン街は映画館以上に混雑していた。

「どうしよう?どこもいっぱいだね。」

「あゆは何が食べたい?まだ時間あるし、並んだって映画には間に合うからさ。」

私は、ここでも「トンカツ」と自分の食べたい物を素直に言った。もっと女の子らしいメニューを言うべきなのかもしれないけど、家で油を使った料理はしないので、こういう時に食べておきたくなる。

「トンカツか、いいね。じゃあ、お店探そう。」

私達が見つけたお店は「トンカツ専門店」と大きく看板に描かれている人気のお店だった。その分、行列も長い。

「並ぼうよ。」

私が「こんなに並んでるならいいよ。」と言う前に、涼介は列の一番後ろに並んでくれた。
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