都合のいいふたり
俺はあゆの腕を掴み、引っ張るようにその場を離れ、
エレベーターに向かって歩いた。

「どこ行くの?こっちにレストランはないよ。」

「いや、ここを出て一旦落ち着こうと思って。」

「誰が落ち着くの?」

その言葉に我に返る。
あゆは既に落ち着いていた・・・。

「あゆ、大丈夫なのか?あいつ、あゆの元彼だろ。」

「ちょっと驚いたけど、大丈夫だよ。早くランチをして、映画を観に行こうよ。」

映画を観ようなんて余裕は何処から生まれてくるんだ?

「いや、今日はやめよう。もし、またあいつに会ったら、俺は殴りかかるかもしれない。」

「どうして、涼介がそんなに怒るの?」

あゆからすれば、真っ当な疑問だ。

その答えは、明らかにあいつへの嫉妬だった。
でも、あゆの彼氏でもない俺がそんな事を言える訳もない。だから、余計に腹立たしい。

もし、あいつがまともな奴だったとしても、俺は嫉妬してただろうし。

「とにかく帰ろう。」

「涼介がそんな風に怒ってくれるから、私は落ち着いていられるのかもしれないね。ありがとう。」

あゆは笑ってさえいる。

「なんかごめんな。」

妙な展開だけど仕方がない。俺は怒りを収められないのだから。

「じゃあ、映画は諦めるから地下のカフェでも行こうよ。折角、ここまで来たんだし、お茶ぐらい飲んで帰ろう。」

俺が観たいと誘った映画を、あゆが諦めると言う。
流石にここは俺が折れるしかない。

「分かった。お茶だけな。」
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