都合のいいふたり
利害関係の成立
私は馬鹿だった。
あの家族の幸せを壊してしまっていたのかもしれないと思うと、全身が震えた。

父親がいない苦しさを、母親が忙しくて甘えられない寂しさを誰よりも知っているはずだったのに。

あの人に騙されたと自分を正当化して、被害者の振りをしていただけで、私は完全なる加害者だった。

電車に乗っている人達の何気ない視線ですら、自分が責められている様に感じる。

涼介は何を思ったのだろう。
私の犯した罪の愚かさに軽蔑しただろうか。
いつもなら私が黙ったとしても、何事もなかったように話し続ける涼介がずっと黙ったままだ。

家に帰ると自分の部屋に籠ろうと思っていた。
こんな惨めで、汚れた心を涼介には見られたくなかった。
私が靴を脱いでるいると、後ろから涼介に抱き締められて、驚きで声も出せず、全身がビクッと震えた。

「涼介、離して。」

「離さない。俺が離したら、あゆは部屋に戻って、ひとりで泣くだろ?」

「泣かないよ。大丈夫だって言ったじゃない。」

「でも、あの家族を見てからのあゆは辛そうで見てられない。」

「私は最低なことしてたんだなって自覚しただけ。だから、天罰が下ったんだよ。」

「じゃあ、俺も最低なことしていい?」

「何?」

「あゆを抱きたい。」

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