都合のいいふたり
どれぐらいの時間が経ったかも分からなくなった頃、涼介が帰って来た。

「ただいま。あゆ、どうしたの?どこ?」

私がリビングのいつもの定位置にいないのを知って、涼介が声を上げる。

私は無視する訳にもいかず、階段の上から答える。

「2階にいるよ。」

「どうしたの?」

涼介の声はいつもと何も変わらない。

「体調良くないから、寝てるだけ。」

「大丈夫か?薬とか飲んだ?」

「大丈夫。寝てれば治るから。」

涼介は一度もこの2階へは上がって来ない。
二人で過ごす夜も、いつも涼介の部屋だ。
それは、最初に交わした誓約書のルールの一つだから。

「そうか。無理そうだったら言えよ。病院だって連れて行くし。」

普段通りに優しい。浮気する男の人は、こんな感じなのだろうか。外で誰と会おうと、家に帰ると日常を熟していく。
私達の場合、浮気相手が私になるのだろうけど。

その日は涼介の顔を見れないまま、一晩を過ごした。
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