都合のいいふたり
「高山社長とお話がしたいのですが。」

「失礼ですが、どちら様でしょうか。弊社の社長とのご関係をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

電話に出たオペレーターは怪訝そうな声で聞いてくる。

「仕事上のお付き合いはありません。お会いしたこともありません。ただ、社長様へ『杉村歩』さんの高校の同級生だとお伝えして頂けませんか?私の名前は、阿川涼介と申します。お願いします。」

それから5分程待つと、次は電話口に男性が出た。

「私、高山の秘書です。阿川様は、杉村歩様の同級生とお聞きしたのですが。」

「はい、そうです。」

「本日は、どう言ったご用件でしょうか?」

「社長に歩さんの近況のご報告とお願いがありましてお電話しました。決して、金銭的なことを言うつもりはありませんので。」

「承知致しました。お待ちください。」

不審がられるのは仕方がない。ただ、あゆの名前を出せば無視はできないだろうと考えていた。

また、5分程待たされる。

「お待たせしました。私が高山です。」

「初めまして。私は歩さんの高校の同級生の阿川涼介と申します。実は、歩さんのことで、高山さんとお話をしたいと思いまして。」

「歩は元気ですか?不自由なことはありませんか?」

「歩」という名前だけで、高山さんの声が父親の声色になっていた。

「はい、高山さんのマンションで元気に過ごされていると思います。」

流石に、俺が居候しているとは言えない。

「そうですか、ありがとうございます。もし、よろしければ、一度お会いして、お話をお聞かせ頂けませんか。」

まさか、高山さんから言ってくるとは!

「私もお会いしたいと思っておりました。いつ、お伺いすれば宜しいでしょうか。」

「プライベートなことなので、自宅へ来て頂いても宜しいですか?日時は阿川さんのご都合で結構ですので。」

真剣に話していたけど、高山さんの口から「プライベート」という言葉を聞いて、やっぱりどこかで親子なんだなと可笑しくなった。

「はい、承知致しました。では、早速、今週の日曜日の朝9時にお伺い致します。よろしくお願いします。」
< 45 / 57 >

この作品をシェア

pagetop