都合のいいふたり
こうやって、今、俺は家の前に立っている。
緊張の中、インターホンを押す。

「阿川と申します。」
それだけ言うと、門が開いた。
玄関に進むと、お手伝いさんらしき人が玄関の扉を開けて待っていて、部屋へと案内してくれた。

これを「応接室」と呼ぶのだろう。立派過ぎる家具や装飾品に身の置き所が分からず、落ち着かない。

その時、扉が開き、テレビで見たことがある「高山社長」が入って来た。

「初めまして。高山茂と申します。今日はお越し頂いて、ありがとうございます。」

「阿川涼介です。こちらこそ、急にお電話などしてすみませんでした。」

俺みたいな奴にでも偉ぶることなく威厳はあるが、穏やかな雰囲気を纏った人だった。

「歩の同級生の方が、どんな御用でしょうか。私が「歩」なんて呼べる立場でもないんだけどね。」

「私は今、歩さんの近くにいさせてもらってます。歩さんは、素晴らしい女性です。僕は歩さんとの将来のことも考えています。失礼ですが、歩さんとはお会いしていないんですよね?」

「恥ずかしながら。私は、結果的に歩とあの子の母親を捨てた人間ですから。歩は、私には会いたくないでしょう。」

「でも今となっては、歩さんと血が繋がった家族と呼べるのは高山さんだけです。きっと、何か事情があって、歩さんや歩さんのお母様とお別れをされたんでしょう。私はいつか、歩さんはあなたに会うべきだと思っています。」

「私も会えるものなら会いたいよ。きっと、母親に似て、優しくて聡明な女性になってるんだろうな。」

「私がいつか、必ずここへ連れて来ますので、待っていて頂けますか。」

「君はもしかして、私を品定めしに来たのかな?歩に会わせるべき人間かを。」

さすが、大企業の社長となれば、俺の考えてることなんてお見通しだ。

「品定めなんて、そんな。ただ、僕は歩さんを傷付けたくなくて。もし、あなたが歩さんとお会いする気持ちがないのなら、僕の考えは間違っている。それを確かめておきたかっただけです。」

「ありがとう。それで私は君のお眼鏡に叶ったということだね。もし、歩に会えるのなら、こんなに幸せなことはない。今まで待っていたのだから、これからもいつか、歩が私に会ってもいいと思える日まで、いつまででも待つつもりだよ。」

そう言いながら、高山社長は涙を流した。

「ありがとうございます。今日はお会いできて良かったです。」

「こちらこそ、ありがとう。歩のこと、よろしく頼みます。」

最後に男同士の堅い握手をして、俺は家を出た。

あゆのこと、ちゃんと愛してくれているんだなと、心底、ホッとした。
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