都合のいいふたり
高山社長の家を出て、今度は2時間かけて実家に向かう。どうしても、母さんにお願いしたいことがあったからだ。

「ただいま。」

「お帰り。どうしたの年末の忙しい時に、わざわざ話があるなんて。」

「今年は、話次第では正月に帰って来れないかもしれないから、顔見せの意味も込めて、帰って来たんだ。」

母さんは、お昼の準備をして待っていてくれた。
俺は久しぶりに「実家の味」を堪能した。

「改まって話って何?」

「実はさ、俺、今、あゆの家に居候させてもらってるんだ。」

「居候って、大の男が情けない。」

「仕方ないだろ、家が急に火事になって寝る場所も失くしたんだから。」

「もう、半年も前の話だろ。いつまでもあゆちゃんに甘えてると、逃げられるよ。」

「母さん、痛いところを突くなよ。」

「やっぱり。この間の電話であゆちゃんのお父様のことを聞くから、何かあるなとは思ってたのよ。それで?」

ここにも、俺の考えをすぐに見抜く人がいた。

「正月にあゆをここへ連れて帰って来ようと思ってる。あいつはこの10年、帰る場所もなくて、ずっと一人で正月を過ごしてきたんだ。」

「うちはあゆちゃんならいつでも大歓迎だよ。昔から控えめだけどいい子だったもんね。」

母さんは嬉しそうだ。

「ありがとう。まぁ、あゆがこの話を受け入れてくれたらだけどな。もし、断られたら今年は東京に残るつもりだよ。」

「あんた、あゆちゃんにはまだ言ってないのに、先に外堀だけ埋めに来たの?」

母さんが呆れている。

「外堀っていうか、確認だよ。」

「相変わらず、優しいだけで意気地のない子だねぇ。」

返す言葉がない。
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