熱い熱がたまる
2
✴︎
カレシさんの分は、カレシさんが会社の誰かにあげたそうだ。
だから、隣の席に誰かが来るらしい。
舞香はあまり気にしていなかった。
出会い、とかチラッとよぎったが、どちらも知らない人同士。
挨拶するかどうかも不明だ。
わぁ、
球場は想像よりずっと広かった。
入り口からはいり、野外席には座席の横から階段を登っていくのだが、いきなり、広い空と広い空間と、広いグラウンドが目に飛び込んできて、一気に突き抜けるような不思議な気持ちになった。
爽快だった。
席は外野席。
ベンチのようなつながった狭い席に、ファンの熱気でむせるようだった。
チケットに書いてある番号を探す。
(あった)
舞香の座るはずの席だけ、小さく空いている。
みんな、球団の応援用ユニフォームや帽子を着ていて、応援グッズのメガホンを手に、盛り上がっている。あたりは球団の色に染まっていた。
どちらの隣がカレシさんの方の席かわからないぐらいの真ん中に、そっと座った。
右隣は、少し年上かな、という感じの男性。
左隣は年配の細いおじいちゃん、どちらも普段の服の上に、派手なユニフォームを羽織っている。
どん、どん
といきなり、地面が揺れるような大きな太鼓が響き、球団の旗があちこちの角にあげられる。
大きな旗が空にばさりばさりと音を立てて舞う。
妙な興奮が、舞香を包んだ。
学生の頃の体育祭をおもいだすような、非日常な空間。
戦いの火蓋。
少し荒々しい、男性的な空気感。
旗が下され、応援のための演奏が華々しくはじまった。
地響きがするような太鼓。
ベンチにいるファンが、鳴り物を鳴らし、一斉に応援しだす。
きっちり手順というか、掛け声や応援歌があり、試合に沿って応援団長さんみたいな人がファンを率いていく。
横の2人も一斉に応援を始めた。
その声が、耳に入り、何だか体がザワザワとした。
興奮する。
やり方が分からないので、1人だけ、取り残されたみたい⋯⋯ 。
なんか、ちょっと、混ざれたらいいのに。
慣れてないのが残念なような熱い空間だ。
ぼんやりしていたら、突然右隣の男性が、
「こうやるんだよ」
と言って、自分が持っていた音がなる応援グッズを、舞香の手にギュッと渡してきた。
男性は、大音量のさわぎの中細かい声は聞き取れない、と思うまもなく、舞香が分かるようにと少し身を傾けて、耳元で、なにか言ってきた。
舞香も聞こえるように、彼に「えっ? 」と近づいた。
至近距離で目が合った。
男らしい、骨太な男性だった。
背は高そうだが、無駄な脂肪がついていない、細身でガッチリした体型だ。
ニコリともせず、歓声の中、声で伝えることを諦め、彼はゼスチャーで応援するよう伝えてきた。
彼の体温を感じた。
舞香より確実に高い体温。
彼から発せられるそれが、ジワリジワリと体の右横に感じる。
狭い席だから、太ももも肩もすごく近くて、その熱を避けることはできない。
ふと下を見たら、彼のズボンに包まれた長い足が、舞香のストッキングの足の横に見えた。
大きな靴、
開いた足、
服の下には、舞花と全く違う体がある。
舞香は目を逸らした。
なんとなく気恥ずかしい気持ちがした。
球場の熱気。
大音量と、ファンの集中力と、
目の前に広がる、ひろい空。
✴︎
カレシさんの分は、カレシさんが会社の誰かにあげたそうだ。
だから、隣の席に誰かが来るらしい。
舞香はあまり気にしていなかった。
出会い、とかチラッとよぎったが、どちらも知らない人同士。
挨拶するかどうかも不明だ。
わぁ、
球場は想像よりずっと広かった。
入り口からはいり、野外席には座席の横から階段を登っていくのだが、いきなり、広い空と広い空間と、広いグラウンドが目に飛び込んできて、一気に突き抜けるような不思議な気持ちになった。
爽快だった。
席は外野席。
ベンチのようなつながった狭い席に、ファンの熱気でむせるようだった。
チケットに書いてある番号を探す。
(あった)
舞香の座るはずの席だけ、小さく空いている。
みんな、球団の応援用ユニフォームや帽子を着ていて、応援グッズのメガホンを手に、盛り上がっている。あたりは球団の色に染まっていた。
どちらの隣がカレシさんの方の席かわからないぐらいの真ん中に、そっと座った。
右隣は、少し年上かな、という感じの男性。
左隣は年配の細いおじいちゃん、どちらも普段の服の上に、派手なユニフォームを羽織っている。
どん、どん
といきなり、地面が揺れるような大きな太鼓が響き、球団の旗があちこちの角にあげられる。
大きな旗が空にばさりばさりと音を立てて舞う。
妙な興奮が、舞香を包んだ。
学生の頃の体育祭をおもいだすような、非日常な空間。
戦いの火蓋。
少し荒々しい、男性的な空気感。
旗が下され、応援のための演奏が華々しくはじまった。
地響きがするような太鼓。
ベンチにいるファンが、鳴り物を鳴らし、一斉に応援しだす。
きっちり手順というか、掛け声や応援歌があり、試合に沿って応援団長さんみたいな人がファンを率いていく。
横の2人も一斉に応援を始めた。
その声が、耳に入り、何だか体がザワザワとした。
興奮する。
やり方が分からないので、1人だけ、取り残されたみたい⋯⋯ 。
なんか、ちょっと、混ざれたらいいのに。
慣れてないのが残念なような熱い空間だ。
ぼんやりしていたら、突然右隣の男性が、
「こうやるんだよ」
と言って、自分が持っていた音がなる応援グッズを、舞香の手にギュッと渡してきた。
男性は、大音量のさわぎの中細かい声は聞き取れない、と思うまもなく、舞香が分かるようにと少し身を傾けて、耳元で、なにか言ってきた。
舞香も聞こえるように、彼に「えっ? 」と近づいた。
至近距離で目が合った。
男らしい、骨太な男性だった。
背は高そうだが、無駄な脂肪がついていない、細身でガッチリした体型だ。
ニコリともせず、歓声の中、声で伝えることを諦め、彼はゼスチャーで応援するよう伝えてきた。
彼の体温を感じた。
舞香より確実に高い体温。
彼から発せられるそれが、ジワリジワリと体の右横に感じる。
狭い席だから、太ももも肩もすごく近くて、その熱を避けることはできない。
ふと下を見たら、彼のズボンに包まれた長い足が、舞香のストッキングの足の横に見えた。
大きな靴、
開いた足、
服の下には、舞花と全く違う体がある。
舞香は目を逸らした。
なんとなく気恥ずかしい気持ちがした。
球場の熱気。
大音量と、ファンの集中力と、
目の前に広がる、ひろい空。