熱い熱がたまる
5
✴︎



試合が終わった。

会場の熱と、外気の熱と、自分自身の内側の芯が何だか分からない熱をおびてる。

しばらく座ったまま、広い球場に吹く夜風を感じ、一斉に帰る人並みを見ていた。

あの中に混じって、同じような興奮に包まれて帰るのかな。

まだ皆余韻が冷めず、歌っている人、試合について話している人、

何とも言えない、祭りの後⋯⋯ 。

貴文も黙って隣に座っている。

ふっと隣を見たら、貴文がまたじーっと舞香を見ていた。

なんか、帰りたくないな、と思った。
まだ、全然足りないなって思った。

でも、人混みで、今から頑張って帰ったら、程よくかなり遅い時間だ。
何か、言わなきゃ、
と舞香は思った。


「あの、気持ちいいですね」


と、そのまま言ったら、じろっとにらまれ、ため息をつかれた。

変な事言ったかな⋯⋯ 。

急に貴文が、


「帰るぞ」


と言った、なんか、その言葉が、心の奥にキュッと入り込む、なんか、この人と帰るんならいいのになって⋯⋯ 。
この帰りたくないようなもどかしい熱が、そう出来たらなって、なんて。



✴︎


駅までの道も、駅の改札から外も、並ぶぐらい人だらけ。
一旦列に入ったら、ただひたすら、人並みに混ざりながら少しずつ進む。

なかなか進まなければ、それだけ隣の貴文と一緒にいられる。
人の波の中で、彼の存在を全身で感じている。

ちょっと押されるから、ちょっと彼に近づく。

貴文の逞しい腕に体が当たり、少し俯いてたら、彼の二の腕におでこが当たりそうになって、彼を頼りたくなった。
あまり頭を傾けたら、こんな気持ちがバレてしまうよ、って思う。

甘えたくなる。
なんとなく、
彼の腕に寄り掛かりたい気分。

改札口を通る時、もっと押された。

気がついたら、貴文の胸の中に、すっぽり入っていた。
後頭部が彼の鎖骨にあたり、おでこに息を感じた、体の凸凹にそって、彼の体が当たる、貴文の指が舞香の腕をそっと撫でるようにおり、肘を包んだ。

すごく安心した。
知らない場所で、夜で、混んでるけど、この人といたらなんか安心する⋯⋯ 。

ちょっと顔を上げたら、こめかみに貴文の唇がかすった。

離れがたい。

それでも列は進むし、やがては電車に乗れたし、駅に着くし。

でも、貴文がずっとついてくる。


「えっと、どこまで帰られるんですか? 」


じろっと睨まれた。



舞香の乗る電車に貴文も乗ってきた。
降りたら、貴文もおりた。


「あの⋯⋯ 」

「こんな時間に、一人で帰すわけにいかないだろう」


送ってくれるって事か⋯⋯ じわじわ嬉しい。
でも、たまたま、それぞれが代理でチケットをもらっただけで。

知り合いでもなんでもなくて。

出会いじゃないのかな⋯⋯ 。

貴文はそんなつもりがないのかな⋯⋯ 。

とうとう家まで送ってもらった。
彼は無言で舞香が家に入るのを見届けて、それから、そのまま帰って行った。

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