熱い熱がたまる
8
✴︎



観戦中に、急に雨が降ってきた。


今日も、舞香はまゆ子からチケットをもらい、貴文は秋山さんからもらって、隣に座っている。

お天気だった。

が、少し日が陰ったかな、と思っていたら、あっという間にざーーーと雨が降ってきた。

試合は中断。観客もあわてている。

席がせまいし、球場は満員だったので、急には移動できなかった。
ビショビショになってしまった。

貴文がカバンやら応援グッズやらで舞香が濡れないようにしてくれたけど、雨の勢いの方がすごくて、二人ともびしょ濡れだった。

下着まで濡れてしまい、流石にこのまま帰れない。

貴文が舞香を見て、怒ったような意外なほど荒いため息をついて、自分の着ていた応援Tシャツをグッと脱いで、


「濡れてるけど、とにかく着とけ」


と無理やり渡された。


「いいですよ! 北川さんが困りますよ、」


と言って返そうと思ったら


「バカか、そのままの方が困るんだよ! 」


と怒られる、
(えっ? )と、思ってはじめて自分を見たら、濡れて下着が透けている。


わっ⁈


あわてて、腕で隠してたら、貴文がTシャツを舞香に被せて着せた。

Tシャツも濡れてるから、生地がキュッと固まってるのを広げる時に、彼の指が舞香の体にあたった。

ピッと舞香が反応してしまう。

ギロっと貴文ににらまれる。

Tシャツは、貴文の匂いがした、彼の体温が残っていて、それが、舞香の体を包んだ。


そのまま、2人で球場を出た。
すぐとなりのスーパーがまだ空いてたので、急いで服を買った。
同じように、かなりの人が、慌てて服を買いに来ていた。


くしゅん


スーパーの冷房で冷えちゃった。

舞香がクシャミをして、割と寒くて、うっ寒い、と腕を体に寄せてたら、


「はぁ、」


とため息が聞こえた。


「しょうがねーな、風邪ひいてしまう」



と、貴文が、自分が買ったばかりのシャツをバリバリっと開けて、新しいシャツで、舞香をさらに包んでくれた。


「ぬれちゃいますよ! くしゅん! 」

「いいんだよ⋯⋯ 」


そのまま、連続でくしゃみをしてたら、貴文が舞香に腕を回したままスーパーを出て、大きな車道を渡って、そのまま、そこはちゃんとしたホテルの車寄せで、さらにまっすぐ歩いて、ロビーを通って、受付で部屋を頼んで、2人でエレベーターに乗った。

エレベーターがとまる。

廊下を歩く。

カードキーを差し込み、部屋に入った。


普通の大きさの、ホテルの部屋だった。


「あの⋯⋯」

「バカだな、変な気を起こすなよ」


と少し茶化して、


「ほらっ」


とバスルームに押し込まれた。


「ちゃんとあったまるんだ」



✴︎



「あの、ありがとうございます」


出てきたら、すれ違い様に貴文もバスルームに入って行った。


シャワーの音がする。

ベットが二つ。

シングル。


そんなつもりじゃないから。
雨に濡れただけだから。

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